病理検査部門

病理学は病気の本態究明を目的とする学問で、臨床医学と基礎医学の橋渡し的な位置づけがなされてます。人体組織材料や、動物実験から得られた材料を使って病気の原因や病変の出来方を研究・追求し、病気の組織形態と機能の関連を明らかにする事を目的としています。

 

病院での病理検査は、人体から採取された病変組織を用いての形態学的検索方法が主で、肉眼・光学顕微鏡や、時には電子顕微鏡による観察を行います。最近は免疫組織化学染色や遺伝子検査などを広く取り入れて、単なる形態像の検索ばかりではなく、機能的側面からの検討も行われ“病理診断”が行われます。

 

病理診断は臨床での治療方針や治療効果の判定に役立てられます。また、治療の効果なく不幸にして患者さんが亡くなった場合、ご遺族の承諾の下に解剖による病因検索をすることもあります。医療を陰で支える検査部門の一つとして重要な位置を占めています。

 

組織診断

病変部位の組織を用い、肉眼観察の後、目的により厚さ1~4ミクロン(1000分の1mm)の顕微鏡標本(プレパラート)を作製します。そして顕微鏡を使って、病変の分類や悪性細胞の有無・広がり・浸潤の程度などを診断する検査方法です。

 

診断は病理を専門とする医師(病理医)によって行われます。診断が困難な場合には特殊染色や免疫組織化学染色並びに電子顕微鏡を使っての検索や遺伝子検索を行い、正確な病理診断をするように努めています。

 

細胞診検査

細胞や組織の形態学的な変化を伴う病気の診断法の一つとして細胞診という診断法があり、これは細胞が塗抹されたスライドガラスを顕微鏡で観察して(スクリーニング)、異常な細胞を見つけ同定するものです。スクリーニングは認定資格をもつ細胞検査士が行います。

 

病理解剖(剖検)

病気のために亡くなられた患者さんのご遺体を、ご遺族の承諾のもとに、病理医と助手(臨床検査技師)により解剖し、臓器、組織などを直接観察して医学的検討を行います。これにより死因を正しく理解し、治療の適切性についても検討することができます。

 

 

【病理組織診断について】

病理医の仕事についてご紹介します。病理医は直接患者さんとお会いすることはありません。外来や手術室などで内視鏡や手術によって採取された患者様の臓器や組織の一部を顕微鏡で観察し病気の診断を行います。病気の診断はご存知のように様々な方法を駆使して行われます。症状を問診し、血液や尿などを採取して分析し、更にレントゲンや超音波などの画像を撮影して、その結果を総合して病気の診断が行われます。病理検査はそのような診断手段のひとつです。

 

体の組織の一部を内視鏡などにより採取することが必要なため頻繁に行われることはないのですが、実際に顕微鏡の下で直接病巣の組織を観察出来るため、正確な診断が可能となります。例えば胃や腸に炎症や潰瘍あるいは良性や悪性の腫瘍などがある場合、症状だけで正確な診断を下すのはしばしば困難です。そのため内視鏡で実際の病変を観察し、病巣から採取した小さな組織片を標本にして病理診断を行います。

 

また手術で病巣が摘出された場合も病理診断を行います。この場合は病名の診断と共に病巣の大きさや分布、更に周りの組織への進展の様子を診断し、手術後の適切な治療に必要な情報を提供します。病理医が行うもうひとつの検査は病理解剖です。これは不幸にして治療が奏功せず患者さんがお亡くなりになられた場合に、必要に応じて行われます。

 

今日はMRIなどの画像診断技術が発達したため体内での病気の進行の様子はリアルタイムでかなりはっきりと知ることが出来ます。しかし、たとえば高血圧や糖尿病など画像に写らない性質の疾患も数多くあります。そのため病理解剖ではじめて病気の性質や経過を正確に理解できることがしばしばあります。病理解剖の結果は治療に関わった医師たちが集まるカンファランスで詳しく検討します。

 

このことは次回同様の症例に遭遇した時により良い診療を行うために非常に役立ち、結果として病院の医療レベルが向上します。そのため第三者機関による病院の評価の際には病理解剖が適切に行われているかが重要な項目ですし、日本内科学会や日本病理学会にもその様な施設を登録・認定する制度があります。

日本病理学会認定病理医 黒岩俊彦

 

写真:診断用光学顕微鏡と組織標本[左]
手術で摘出された消化管の癌[中]とその組織像[右]